契約


暗い洞窟の中、少女は座り込んでいた。
ルビーのように赤い瞳、闇に溶け込む黒髪。
深紅の唇の間からみえる鋭い牙。
そして、辺りに散らばる人間の骸。
彼女は人間ではない。
それ故彼女は、人間の血を啜らねば生きてはいけない。


遠くで声が聞こえた。
彼女を造りだし、彼女を守り育ててきた者の最後の声が。
彼女を殺しに来た者に倒されたからだ。
ついに彼女を殺しに来た者が目の前に現れた。
彼を見つめる少女の目には、恐怖も憎悪もなかった。
あるのは安堵と喜びのみ。
彼女は血を得る行為が嫌いだった。
彼女を育てた者は彼女のために人をさらってきた。
彼女の心は、その生け贄を殺すことができなかった。
しかし、彼女の本能は、その哀れな生け贄に牙を突き立てた。
血を啜りながら彼女は泣いていた。
自分の所為で消えた命が哀しくて、他人の命を奪わなければならない自分が恐ろしくて。
泣きながらも、彼女は自分の本能を押さえられなかった。
それを押さえる術を彼女は『死』しか知らない。
しかし今まで、誰も彼女にそれを与えてはくれなかった。


彼の剣が彼女の首に突きつけられた。
彼女は動かなかった。
「なぜ、抵抗しない?」
静かに彼が問いかけた。
「だって、これでもう、誰も殺さなくてすむから」
彼女の答えに彼はさらに問いを重ねた
「死が、怖くないのか?」
「自分の死は怖くない。でも人を殺すのはもう嫌」
彼女はさらに続けた
「私が生きていく限り、私は人を殺さないといけないの。
それなら死んだ方がまし。」
彼は剣を仕舞った。
彼女が不思議そうに首を傾げる。
「私を殺してくれないの?」
「人を殺さずに、生きていく方法があったらどうする?」
彼の問いに彼女はまた首を傾げた。
「そんなモノあるの?」
「俺に逆らわず、俺の命令を全て聞くというのなら」
「いうのなら?」
「俺の僕となれ。そして俺の『力』を糧に生きればいい」
彼女の顔が嬉しそうにほころんだ。
「ただし、おまえは俺に縛られる事になる、自由はなくなるぞ」
彼は確認するようにいうと手を差し出した。
「いいわ、元々私には自由など無いのだから」
彼女は彼の手をとり、立ち上がった
「おまえ名前は」
彼は彼女に訊いた
「エリセシア」
彼女は答えた
そして彼が契約の言葉を唱えた
「エリセシア。我、汝にこの力を捧げし者。
我に従い、我に背かず、 我にその身を捧げる事を誓え。」
その言葉に彼女は跪き答えた。
「誓います。命尽きる時まで」
こうして契約はなされた。

この世に生まれ出でて初めて、エリセシアの顔に笑みが浮かんだ。

短文というわりに長いです。
これだけ長く書くと作者の文才のなさが、ハッキリ出てきてしまいますね。
ちなみにエリセシアは人間の血液から相手の力を吸い取って糧として生きているという設定です。
ちなみにこの作品、『誓約』へ続きます。

2011/05/24 14:10

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